Double Fanatic


 知らず知らずのうちにディスプレイに見入っていたのだろうか、瞳の奥が少し痛んだ。 飲み物を取りに立ち上がりざま、戸田泰介が時計を見れば、時計の針は既に深夜三時を回っていた。 いくら時間に自由がきく身分とはいえ、それにも限度がある。平日のこんな遅くまでメッセンジャーソフトでネット越しに話し込むなど、まともな学生のやる事ではない。 改めて、画面に残る会話の名残を眺める。 shino・今日もありがとう。 shino・ブライトさんの読解力には本当に感心です〜! ブライト・こちらこそ こんな時間まで付き合ってもらって乙   また今度機会があればぜひお話を shino・もちろんです そろそろ遅いので もう落ちます〜 ブライト・でわでわ 「彼女」、すなわちshinoとこうやって話すようになったのは、1年ほど前からだ。 最初は、ブライト……泰介のブログへのコメントの書き込みだった。やりとりが始まってすぐに、泰介はその鋭い指摘に舌を巻くことになる。 誰からの反応もなく、ひっそりとある海外作家の作品についての考察や批評を載せていた自分のブログ。手慰みのようなそこで、こんなに高度な議論を展開できる人物と出会えるとは。 向こうも泰介と同じ作家のファンサイトを運営している事を知り、泰介と彼は掲示板やメールで語り合うようになる。そんな二人のやりとりが、即時の反応の可能なメッセンジャーツールを通じてのものに変わるのに時間は掛からなかった。 そして、コメントの彼が実は女性らしい言うことを知ることを泰介が知ったのもその時だ。 キッチンでのどを潤し、身体を引きずりベッドへ向かう。 肉体的にはさほどではないが、メッセンジャーでのshinoとの議論による頭脳の疲れをどこか心地よく感じつつ、泰介は眠りに落ちていくのだった。              * 迷いのない足取りで学生街の裏路地を抜け、彼女はそのくたびれたアパートの前に立つ。築二十年にもなろうかという古びたたたずまいと、髪型から靴先までそつなくまとまった彼女の外見はあまりにもそぐわない。 ゴミ出しがてら犬の散歩をさせていた男が、通り過ぎざまその姿に気付き驚きに目を見開く。脇目もふらず二階の角部屋を目指し階段を足早に上る彼女は、それを気にとめもしない。 目指す部屋の手前から新聞を取りに顔を出した青年が足音に気付いて振り向き、いいかげん見飽きたとばかりにかぶりを振って自室に戻ってゆく。 もちろん、彼女にとってこれら全ては些末なこと。全ては目の前の塗装のはげたアパートのドア、その向こうで惰眠をむさぼる男のためだ。 「泰介! たーいーすーけー!! あー、だめね。 泰介、中に入るからね! 着替えてても知らないわよ!?」 しばらく呼びかけた後、ためらいのない動作でハンドバッグから合い鍵を取り出し、立て付けの悪いドアを絶妙な力のいれ加減でスムーズに開く。 その奥の散らかった部屋のベッドの上では、ドアから吹き込む初冬の冷気に目をしばたく青年が、あきれたように彼女の姿を見つめていた。 「泰介はいつも寝てばっかり。今日が大事な研究成果報告会の日だって覚えてた?」 「ちょっと寝坊しただけじゃないか。開始時間までに学校に着いてればいいんだよ。みのりちゃんはいつも細かすぎ」 「何よ、それが寝坊した自分を起こしに来てくれた美人の共同研究者にする物言いかしら」 「本当の美人はね、自分で美人なんて言わないんだよ。つまり君は残念な……」 「泰介、そう言う事は、自分の顔を見てから言った方がいいわよ」 二人で大学へと急ぎながら、彼女……朝霧みのりのふだん通りの物言いに、泰介は苦笑した。 配属前の研究室見学に訪れた彼女の美少女ぶりに度肝を抜かれた頃から、もう1年になるだろうか。 泰介の後輩として研究室に配属された後、研究テーマが似通っていたことから共同で研究を進めていく事になり、彼女の面倒を見るようなり。 めきめきと頭角を現した彼女に何時しか追い越され、冬の足音が近づく今では一学年下の彼女に面倒を見られていると言った方が正しいかも知れなかった。 「トラッドだっけ? そんな外国の作家なんかにうつつを抜かすのは、きちんと研究で成果を出してからにして欲しいわね」 「トラウト。キルゴア・トラウトだよ、みのりちゃん。いいかげん覚えてよ」 「そんなのどうだっていいじゃない。トラウコだろうがトランドだろうが、私には関係ない事だし」 身も蓋もなく言い放ちながら、まるで泰介が自分に付いてくるのを当然の事のように一歩前を歩く彼女の姿を改めて眺める。 派手に巻かれ、高い位置で結われた明るい茶色の長い髪。一見地味なようでいて、よく見れば造りの良さが際だつタートルネックの上着と、それを押し上げる男たちの視線を惹き付けてやまない胸のふくらみ。膝丈のスカートから伸びるブーツに包まれた脚は、まるでモデルと見まがうほどにすらりとしていた。 さらに、上から羽織ったコートの絶妙な着崩しが、彼女のセンスを際だたせている。普段着はもちろんの事、実験の際に着用する白衣ですら彼女にかかればその知性と美しさを引き立てる物になってしまうのはもはや天性のなせる技だろう。 足早に歩くみのりの一歩後ろに付いていきながらだと、そんな彼女が道行く男たちの視線を一手に集めているのがよく判る。そして、その次に自分へ向いた視線が「どうしてこんな奴が一緒に?」という疑問へと変わるのも。 大学院生であるため大学生活のほとんどを研究室で過ごす、つまり共同研究者のみのりとも行動を共にする時間の多い泰介にとって、そんな視線はもはや日常の一部となったものだ。しかし、慣れている事とそれをどう思うかは別問題だった。 「泰介、急がないと研究報告会に間に合わなくなるわよ」 振り返ったみのりが急かす。 自分達二人が周囲からどう見られているかまるで頓着していないその調子に、気持ちを切り替える。そう、自分はあくまでも彼女の共同研究者であって、それ以上でもそれ以下でもない。 よく起こしに来てくれるのもサボりがちな自分をきちんと大学に行かせるため、たまの休日に買い物や食事に連れ回されるのも彼女のストレス解消のためだ。 なにより、周囲にはその美貌に見合ったそれなりに丁寧かつ慇懃無礼な態度で接する彼女が、自分にだけは雑な扱いに終始するというところで、既にどう思われているのかが判るというものだった。 「…………このように、本酵素が一連の反応内で果たす役割についてはほぼ検証は終了しています。現在追試を行っている所であり、成果が出しだいまとめに入ろうと考えています。 また、これに伴い見つかった興味深い現象としては次のようなものがあり…………、………… それでは、今回の発表を終わります。こんな所でしょうか? 先生」 「素晴らしい、素晴らしいよ朝霧君。これをうちの学科の卒業研究だけで終わらせるなんて、宝の持ち腐れも甚だしい」 月に一回の研究成果報告会の最後、みのりの発表が終わり、部屋を包む静寂を破ったのは老教授の喜色満面の声だった。 「ありがとうございます先生。これも先生の指導のたまものですわ」 「いや、私が君に提供できたのはせいぜいここの設備くらいだ。学部4年のいまからこれなら、大学院に進んでからが恐ろしい。 来年の生化学会に出してみないか? これなら若手優秀発表賞、それどころかこのまま発展させていけば柿内賞だって狙える。つくづく君をうちの研究室に引っ張ってきて良かった」 そして、一転して厳しい目で他の研究室のメンバーをにらむ老教授。 「で、それに比べて何だ。君たちのこの発表は。特に戸田、朝霧君との共同研究と言う事になっているが、この中にお前の成果なんて一つも無いじゃないか。院生のお前が、一年下の朝霧君におんぶにだっこでどうする…………」 みのりに向ける手放しの賞賛とは正反対の叱責が、彼女以外の全員の発表に及ぶ。彼らが解放されたのは、およそ1時間ほども経ってからの事であった。 「では、今日の報告会はこれで終了とします。先生、何か最後に一言」 「次は一ヶ月後だ。朝霧君ほどの出来は元から期待していないが、せめてきちんと学問として成り立ったものを持ってこい。私を失望させるな」 吐き捨てるように言ったあと、足早に出て行く老教授と、それに慌てて付き従う助教授。ドアが閉まり彼らの足音が遠ざかっていくと同時に、張り詰めていた空気がゆるんでいく。 最初に口火を切ったのは、報告会の間ずっとアシスタントを務めていた助手だった。 「お疲れさま、みんな。それにしてもまあ、先生も朝霧さんにえらくご執心な事で。私がここに来てから5年になるけど、あんなに喜んでるところを初めて見たよ」 「本当ですか? だからと言って俺達をあそこまでけなさなくてもなあ」 「そうそう。何あの「私を失望させるな」って。そう言うのはもっと渋くて格好良い親父に似合う台詞で、あんな大学だけが人生のおっさんにいわれる筋合いは無いよ」 ひとしきり教授への悪態で盛り上がる院生達。日頃から教授陣の権威に押さえつけられている彼らにとって、これは貴重な息抜きの時間だった。 「しかし、朝霧さんは本当にたいしたものだよ。俺達が学部生だった頃なんて、ただ怒られないようにするだけでもう精一杯」 「戸田も災難だよな。皆の前であんなにこき下ろされて」 「朝霧さんと比べられたら、戸田に限らず俺達は全滅だろうけどさ」 「まあ、俺がぼろくそに言われるのはいつもの事だから。それに、こう見えてみのりちゃんにも結構助けてもらってるんだよ」 苦笑いを浮かべながら、泰介は仲間の慰めに応える。 「泰介はあのくらい怒られないと、全然働いてくれないものね。でも、今回は結構助かったわよ。あくまでも泰介にしてはだけど」 フォローになっていないみのりの言葉。だが、それが彼女なりの感謝であることは、そろそろ1年を共に過ごす泰介には判っていた。 「では皆さん、お疲れさまです。私はちょっと用事がありますので。泰介!! ほら行くわよ!!」 研究室の先輩達への挨拶とは態度をがらりと変えて急かすみのりに、泰介は押し出されるように部屋を出て行く。 「女帝と、その付き人のお帰りだ。いつも思うんだけど、あの二人って付き合ってるのかね?」 「さあ? 戸田に聞いてもはぐらかされるだけだし、女帝様にそんな質問をする勇気は俺にはないない」 「いくら共同研究者とはいえ、戸田にだけやたらなれなれしいものな、女帝様は」 「あれは馴れ馴れしいと言うより暴言じゃないか?」 「でもなあ、世の中には「美女と野獣」って言葉もあるし、意外とあり得るかも……」 「あの二人の場合、「美女かつ野獣」って感じですね。戸田君が野獣だなんてとてもとても」 沈黙を守っていた助手がふと漏らした言葉に、皆が吹き出す。 そんな彼らの笑い声は、廊下を二人騒がしく会話しながら歩く泰介とみのりに聞こえる事はなかった。              * ブライト・そういえば きょう「Spycy Sheeps」の新刊を買いに行ったら無かった shinoさん買えました? shino・買えなかったです〜 秋葉原なんかではもう早売りしてるんでしょうけど、私の居るところではまだ入荷しないみたいで 最近発売された本についてから、日常の愚痴まで。出会った当初は共通の趣味であるトラウトの作品についてだけだった二人の会話も、最近ではそれ以外の分野にも広がっていた。 その口ぶりが、shinoが自分と同年代の女性なのではないかと感じさせていた。だが、不思議と彼女と話すのに気負いはなかった。 むろんこれは、泰介が普段いちばん身近に接している女性がみのりだと言う事も影響しているのは自覚している。みのりと比較すれば、並大抵の女性は付き合いやすいタイプに入ってしまうことだろう。 shino・で、その本屋が shino・大学の近くにあるからって 古くさい専門書みたいなのばっかり揃えてるんです  そんなの学内で買えるのに ブライト・「大学の近く」というのがプライドになっているのかと ブライト・こっちも似たような本屋があって「立ち読みお断り ただし勉強目的を除く」なんて張り紙出してた  ブライト・だれが専門書を立ち読みして勉強するんだ、と言う話w shino・私の所もそんな感じです(笑) ブライト・勘違い本屋は何処でもいっしょってことww shino・ですね〜 あと、こっちではこんなこともあって………… ひとしきりshinoと近所の書店への愚痴で盛り上がる。だが、そこで泰介の中に湧いたのは、ある一つの疑問だった。 彼女が話す事例、その全てと似たような事に遭遇している。そして、自分が話す体験談にすべてshinoが合意してくると言うのもよく考えればおかしい。いくら何でも一つや二つ、彼女の知らないことがあっても良いはずだ。 しばし考えたあと、泰介は思いきって尋ねてみる事にした。どうせ自分の考え過ぎなのだろうし、そのくらいの詮索は許される信頼を築けている自負も彼にはあった。 会話の途切れたタイミングを見計らい、思い切って質問の言葉を打ち込む。 ブライト・突然ごめん  shinoさん もしかして───駅を普段つかってたりする? shino・ ブライト・shinoさん? shino・いきなりなんですか? ブライト・いや さっきうちらが話題にしてた本屋って もしかして同じじゃないですか ブライト・そこ ───書店ですよね  駅の名前と同じあそこ shino・そうですけど ブライト・なら 自分と同じ町じゃないですか まさかという思いと、予想通りという思いが泰介の中で交錯する。同時に、言葉少なな彼女の様子に、自分がその逆鱗に触れてしまったのかと気が気でなくなる。 だが、ここまで来ればもう何を言おうが変わらない、と決断した泰介は、更にたたみかけることにした。 もともと、1年もやりとりしてメッセンジャーでのやりとりにすら限界を感じつつあったのだ。これを機会に彼女と直接会い、心ゆくまで会話を楽しんでみたかった。 ブライト・それなら すぐにとは言わないけど いつか二人でオフ会やってみませんか? ブライト・メッセンジャーだとどうしても限界はあるし、直接会って色々とトラウト談義をしてみたいです shino・ええと ごめんなさいちょっとすぐには答えられないです あとでメールででも shino・それでは 明日もあるので私はもう落ちます〜  おやすみなさいです、ブライトさん 急に会話を打ち切られ、失敗したかと落胆する泰介。 自分がそう思っていただけで、彼女の方からはそこまでの信頼を得ていなかったという事なのだろうか。流石にここで自分からメールやメッセンジャーでshinoに問いただそうとまでは思わなかった。 そして、音沙汰が無くなってから数日。 そろそろ後悔の念で押しつぶされそうになっていた所に届いた一通のメールが、泰介をまた驚かす事になる。 「この前の件について」と言う、平凡すぎる件名。一見すると迷惑メールと間違えそうなそれは、簡潔に先日の非礼をわび、こんど会いたい事、待ち合わせの場所などを指定していた。              * メールで指定された待ち合わせ場所は、最寄り駅の駅前広場だった。 海外ファンタジー文学作家のファンサイトを運営している本好きの女の子。現実世界での彼女は、どんな姿をしているのだろうか。 約束の時間へと近づく時計を眺めながら、shinoの姿に想像をふくらませる泰介。 話しぶりから自分と同年代、もしくは少し若いくらいなのではないかと推測してはいたが、それ以上考えを広げた事は今までなかった。 しかし、ある意味では現実世界でのつきあい以上に本心を晒しているとの信頼感のためだろうか、自分でも驚くほど彼女と会う事に対しての不安はない。 「ごめんごめん。待った?」 後ろから突然聞こえる声に慌てて振り向く。そんな泰介を無視して通り過ぎる女を、向かいのベンチに座った男が笑顔で立ち上がって迎える。久しぶりの再会なのだろうか、近すぎるとすら思える距離で言葉を交わしふれあう二人。 休日昼の駅前広場は、待ち合わせとおぼしき人間たちで溢れている。街灯に寄りかかりながら神経質そうに腕時計を見やる男、花壇の縁に座り携帯電話をいじる女。向こうでは、お喋りに興じていた中年の女たちが、駅から現れた一人と連れだって歩き出していく。 「あの、ブライトさん、ですよね?」 先ほどの声が人違いだった事を確認し、物思いに戻ろうとした泰介を、か細い、だがしっかりとした声が遮った。 「あなたがshinoさん……?」 声の元に目を向けれた泰介は、そこに自分と同年代に見える女の子がいるのに気づいた。 落ち着いたベージュのダッフルコートの前で手を合わせ、こちらを見やる彼女の知性に溢れた眼鏡越しの瞳に、しばし目を奪われてしまう。 「? 私の顔に、何か付いてますか?」 首をかしげる彼女。それと同時に、肩の辺りで無造作に切りそろえた髪が揺れ、後ろ髪をまとめる細いリボンの端が見え隠れした。 「あ…… すみません」 知らず知らずのうちに彼女を見つめていたことを指摘され、ばつの悪い思いをする泰介。そんな彼の内心を知ってか知らずか、彼女はほほえんで自己紹介を始める。 「それでは改めて。始めまして、私が「Cat’s Cladle」管理人のshinoです」 「僕が「トラルファマドール星からの手紙」のブライトです。始めまして。 しかし、初対面って感じが全くしませんね」 「それは私も。メッセで話すようになってもう1年くらいですもの、当然かもしれないです」 「今日は家に有ったトラウト作品の中から───を持ってきてみたんですよ。これ、確かshinoさんと知り合うきっかけになった作品ですよね」 「懐かしいです…… 私がブライトさんの考察記事にコメントして、そこから話すようになったんですよね、確か」 言葉を切り、思い出を懐かしむように遠い目をするshino。その姿を見て、改めてメッセンジャーの「彼女」が目の前にいる事を実感する。 「それじゃ、立ち話も何ですし、どこか入ってゆっくり話しましょうか。シノさん、駅前の───で良いですよね?」 「はい。私もトラウトの未翻訳短編集とか、他にもいろいろ持って来ましたから、広げてゆっくり話しましょう」 「未翻訳短編!! どうも英語は苦手で、トラウト作品は翻訳されたものしか読めてないんですよね」 「英語圏の作家のファンをやるなら、このくらい読めないとだめですよー?」 いつもメッセンジャー越しにしているような、互いの趣味についての会話。だが、生の反応を直に得られるというのは大きな違いであり、楽しみでもある。 腰を落ち着ける前から盛り上がっていた二人が、資料を広げられる店内でさらに白熱した議論を繰り広げられる事になったのは言うまでもなかった。 「それじゃブライトさん、きょうはお疲れさまでした」 「こちらこそ、こんなに長い時間付き合ってもらって申し訳ないです。またメッセンジャーで話しましょうね」 「あの、ブライトさん!」 このあとも何か予定があるとの事で、彼女はこのまま駅前に残るらしい。何気ない挨拶を交わし、立ち去ろうとした泰介をshinoが呼び止めた。 「最初は迷ったけど、やっぱりこうして会いに来て良かったです。また会えますか?」 「もちろんですよ。やっぱり生で会って話した方がいろいろと楽しいですし」 「ありがとう……っ! それじゃ、次に会えそうな日が判ったらメールしますね」 今度こそ別れの挨拶を交わし、可愛らしく手を振る彼女へ、手を振り返しながら家へと向かう。 数時間近く話し続けて疲れているはずが、なぜか身体が軽い。それは同好の士と語り合う事が出来た興奮によるものだろうか、これから先も彼女と会える事に対する期待だろうか。 泰介には、自分を包む高揚感の源が何処にあるのか判らなかった。              * 「泰介、最近貴方付き合い悪いけど、何かあったの? まさか彼女でも出来たのかしら?」 昼休みの学食で唐突にみのりから放たれた言葉に、泰介はレンゲで炒飯を口に運ぶ途中で凍り付く。 「私の気晴らしに付いてきてくれないし、それどころか共同でやらなきゃいけない実験までサボるし。研究室の他の人たちと遊んでるわけでもないわよね? あ、判った、貴方バイト始めたんでしょう?」 固まる彼をお構いなしに、勝手に話を進めるみのり。これだけなら、毎日繰り返された日常の風景だった。 「あなたいつもお金がないって困ってたものね。要らなくなった一年生の時の教科書を売ったそのお金で研究室の飲み会に来たのはいつだったっけ? あれ、泰介どうしたの? そんな驚くようなこと、私言ったかしら?」 「な、なんでもない、何でもないよ、みのりちゃん」 「ふーん……」 何か問うような目を向けるみのりを避けるかのように、泰介は昼食の残りをかき込む。食べ終えて一息つくまで、みのりの心の奥底を見透かすような視線が自分から離れていないのを嫌でも感じてしまう。 「ええとね、ちょっと新しい友達が学校の外で出来て、その人と遊んでただけ。それだけだよみのりちゃん。別に彼女とかそんなのじゃない」 「彼女じゃない、ね。と言うことは、女の人なんだ」 「どうして? いや、そんなことどうでもいいじゃないか」 泰介がカマを掛けられたと気付いたときには既に遅し、次第に表情を厳しくしていくみのり。 「女の子、ね。泰介が私を放っておいて女の子と会ってたのかぁ…… そうなんだ…… 泰介、その人の方が私よりも大事なんだ。学校でこんなに色々と「お世話」になってる私を、そんなあっさりと見捨てちゃうんだ。あーあ、知らなかった、泰介がこんな冷たい人だったなんて」 反論を挟む間もなく一気に言い放つみのり。語調こそいつものどこか人を食ったものだが、自分を見つめるその目が笑っていないことが泰介の心を寒くする。 「……なーんてね」 だが、そんな態度も一瞬で終わり、そこにいるのは普段通りの彼女だった。あまりにも早い変わり身に、泰介は思わず自分の目を疑ってしまう。 表情を崩し、常の不敵な笑みを浮かべながらみのりは続ける。 「一応共同研究者だけど、別に泰介と私は付き合ってるわけでも何でもないし。そのくらいで怒るわけ無いじゃない。捨てられた子犬みたいな目をしちゃって、それだから泰介はへたれとか何とか言われるのよ」 「みのりちゃん、ごめん」 だが、長い間近くで接し続けていたからこそ泰介には判る。さっきのみのりは本気だったと。 「泰介!! 今日は実験を早めに切り上げて、駅前のケーキバイキング行くわよ」 「みのりちゃん、僕のあれ、結果が出るまでずっとそばに付いてないといけないんだけど」 「良いじゃない一回くらい失敗したって。院生の泰介はまだ卒業まで時間があるんだし。それよりも、ストレスに押しつぶされそうな美人共同研究者の気晴らしに付き合うのが先輩の務めってものでしょう?」 だからこそ、調子を変えたみのりの常と同じきつい言葉にもむしろ安心してしまう。 「泰介、どうしたの?」 「いや、何でもないよみのりちゃん。さあ行こうか」 そう、彼女はこれでいいのだ。 先に立って急ぐみのりを眺めながら、泰介はそう自分を納得させる。これがみのりと自分、二人のいつもの関係なのだと。              * 「今日はいつもの所じゃなくて、私のお気に入りの喫茶店で話しませんか?」 みのりと出かけてからしばらくの後。 研究が一段落したある週末。 前回付き合ったからと説き伏せてみのりの誘いを何とか断り、泰介は久しぶりにshinoとの待ち合わせに向かった。そこで聞かされた彼女の第一声は、彼を驚かすに十分だった。 どこか強引なshinoに案内され、駅向こうのその店へ向かう二人。 「こっちです。私、学校帰りとか休みの日なんかによく来てるんですよ」 「と言う事は、shinoさんはもしかしてこの辺りに住んでいるの?」 「ふふ、それは秘密です」 思わず尋ねてしまった泰介を、軽くあしらう彼女。だがそこに、住所を詮索された事を嫌がる様子がないことが、泰介をほっとさせる。 程なくして着いたその店は、住宅街の中で民家を改造した、知らなければ通り過ぎてしまいそうなくらいひっそりとした喫茶店だった。 カウンター席では新聞を広げた老人がマスターに語りかけ、窓際では中年たちがうわさ話に花を咲かせる。 shinoに目をやったマスターが軽く会釈し、shinoも笑顔でそれに応える。 トイレから小さな男の子を連れて出てきた女性がshinoに話しかけ、それに答えながら男の子の頭をなでてやるshino。あまりにも自然に店内の人混みに溶け込む彼女の様子が、「学校帰りに良く寄っている」というその言葉を裏付けていた。 中年女性たちに軽く手を挙げて挨拶し、その奥の角のテーブルへ。きっとそこが彼女の定位置なのだろう、あまりにも自然なその歩みに、shinoではない普通の女の子としての彼女、その日常生活そのものを覗いてしまったかのようで泰介は居心地の悪さを感じてしまう。 「あのミキちゃんがうちの店に彼氏を連れてくるなんて、こりゃ毎週末に通ってもらうのもそろそろ終わりかな?」 カウンターの老人との会話を切り上げたマスターが水を持ってくる。気安くshinoに呼びかけるその様子が、何よりも彼女がこの店の常連である事を物語っていた。 「別に彼氏とかそんなのじゃないですよー。あ、でもこれからは二人で来る事になるのかな?」 意味深な視線を向けながらおどけて言う彼女に、思わずどきりとしてしまう。 「でも、ブライトさんには彼女がもう居ますよね。私知ってますよ。先週末、二人で駅前の───のケーキバイキングに来てましたよね?」 「どうして知ってるんですか?! いや、別にあれは彼女でもなんでもなくて、大学での共同研究者ってだけで、確かにいつも一緒に居るけどそれは彼女が……」 「いいですよブライトさん、そんなに慌てなくたって」 マスターが去ってからも、更にそういった話題を続けようとする彼女の思わぬ積極さに驚く。 店全体を包む気安い雰囲気の中にいる事がそうさせているのだろうか、生き生きとした瞳で楽しげに自分を問い詰めるその姿に、こんな一面もあったのかと目を丸くしてしまう。 「そ、それで今日は、この前に出たトラウトの新作に付いてなんだけど」 「そうやって話をそらす…… 新刊と言えば、──のことですね? 私も翻訳されてすぐに読みましたよ」 「あれって、基本の骨格は変わっていないのだけど、主人公の立ち位置にこれまでらしくないところが有る気がしません?」 「いや、私はそうは思わないです。あれは一見しただけでは判らなくて、きちんと読むと…………」 「ミキちゃん、申し訳ないんだけどそろそろ看板だよ」 「え、もうそんな時間なの?」「閉店ですか?」 気がつけば、窓の外はすっかり闇に包まれている。入れ替わり立ち替わり訪れた客達も居なくなり、店内には資料を広げて話し込む泰介とshinoの二人だけになっていた。 「もっと居させてやりたいのは山々だけど、ミキちゃんをあんまり遅くに帰すわけにも行かないし。続きはまた後でって事にしてくれないかな」 「ごめんなさいマスター。つい盛り上がっちゃって周りが見えなくなってしまって」 支払いを済ませ、二人で外に出る。 先に出たshinoが、身を震わせコートの前をかき合わせる。初冬の早い夕暮れのおかげか、店の外はめっきりと冷え込んでいた。 夜の寒さに当てられた帰宅途中の近所の住人だろうか、遠くでくしゃみをする女の声がした以外は、歩く者もほとんど居ない。 「良い店でしょう? 私、子供の頃からの常連なんです。落ち着いて本を読みたいときは、いつもここに来ていて」 「僕も気に入りました。駅向こうにこんな店があったなんて知らなかったですよ」 こぢんまりとした店構えを眺めながら、何かを思い出すような表情でshinoが言う。先ほどの様子を見る限り、本当に小さな頃からの訪れているのだろう。  「せっかくですし、ブライトさんが良ければこれからはここで会う事にしませんか? ここなら長居しても大丈夫でしょうし」 おずおずとしたshinoの提案に、泰介は一も二もなく賛成する。 けして高級でも豪華でもないが、どこか安心させられる店内の雰囲気が気に入ったというのもある。だがそれ以上に、子供の頃からの大切な場所を、彼女が自分と共有してくれるという事への嬉しさがあった。              * 「おい、戸田。女帝様はいったいどうしちまったんだ? 彼氏のお前なら何か知ってるだろ?」 キャンパス内を歩いていると、泰介は同じ研究室の院生から声を掛けられた。 「だからそんな仲じゃないって、何度も言ってるだろ」 「今さら言い訳はよせって。で、実際どうしたんだよ、あれは」 みのりについてあれこれとからかわれる事は日常の一コマであり、泰介にとっては今さら驚く事でもない。だが、ただならぬ様子で質問してくる彼の様子が、みのりに何か普通で起こってない事が起こった事を伺わせた。 なおも問いただす同僚を捨て置き、泰介は急いで研究室に向かこう。 ここしばらく、話しかけても応えなかったり、昼過ぎには帰宅してしまったりと確かに彼女の様子は多少おかしかった。 それが先日、shinoの馴染みの店に初めて案内されてからだと言う事に思い至り、青くなる泰介。 みのりがそんな様子なのをこれ幸いに、研究を放り出して毎日のようにshinoと例の店で話し込んでいた自分に対し、ついに彼女がへそを曲げたのかと恐れをなしてしまう。 研究室のドアを開け、怒り狂っているはずのみのりを探す。だが、彼がそこに見たのは予想とは全く正反対の姿だった。 「泰介、この格好、どうかな?」 聞き慣れた声色が、聞き慣れない弱々しい調子で彼に話しかける。 身体の線を隠すゆったりとしたセーターに、おとなしい色のカーディガン。通り過ぎる誰をも振り向かせていた脚線美も、今では長めのスカートの陰に隠れている。 「みのりちゃん、なのか?」 巻かれていた髪はストレートに戻り、ゆるやかに肩にかかっている。後ろ髪をまとめるバレッタが控えめに主張している他は、今までのヘアスタイルの豪奢な雰囲気はどこにもなかった。 「うん。ちょっと雰囲気変えてみようと思って。 泰介はこういうの、嫌い?」 普段履いていたブーツやヒールでないせいか、幾分かみのりの背が低く見えるのがさらに違和感を誘う。 「あの、泰介の友達、あの娘みたいな方が、好きかな、って」 「友達って…… どうしてみのりちゃんがそんな事を知っているの?」 確かに外見の雰囲気だけで言えば、みのりの今の姿と未紀は確かに似ている。だが、なぜみのりがshinoの事を知っているのか。 「そんな事どうでもいいじゃない。それと泰介、今までいつも酷いこと言ってごめんなさい」 「そんな、いきなり謝られても。みのりちゃん、いったいどうしたんだ?」 どうにも調子が狂うみのりの様子に、頭をかく泰介。 「私が泰介にきつく当たるから、最近その「友達」の所にばっかり行ってるんだよね? 大丈夫、私もう変わるから。これからは、もっとおとなしくなる事に決めたの」 「まあ、みのりちゃんがそうしたいというなら俺は止めないけど」 「本当?! じゃあ、いま取り組んでるあの実験終わったら、───行くのに付き合ってね」 「そのくらいでみのりちゃんの気が晴れるなら喜んで。それにしても、いきなりそんなイメチェンして、周りのみんなに驚かれなかった?」 「もちろん驚かれたわよ? でも、泰介はこういう感じの娘の方が好みなんでしょう?」 答えになっているような、そうでないような、微妙にずれた言葉を返すみのり。 全身から褒めてもらえる事への期待を発散する、子犬のような彼女にどうにも戸惑ってしまう。 「まあ、確かに前みたいな格好よりはこっちの方が好みではあるかな」 彼女をまっすぐ見る事ができず、視線をそらしたまま賞賛の言葉を伝える。返事が無くとも、視線をそらしたままでも、みのりが喜んでいる事が振りまく雰囲気だけでよく判った。 そして、遠巻きに冷やかしの視線で見つめる研究室の同僚達をにらみながら、泰介はみのりの外見を誉めるのは、これが初めてだということに今さらながら気づいていた。              * shino・きょう きてくれませんでしたね shino・あしたも きてくれないんですか shino・このまま あわなくなるんですか shino・あしたは きてくれるんですか ブライト・shinoさん? どうしたんですか?  変換できてないですよ 様子の変わったみのりの妙な弱々しさが放っておけなくなり、shinoとの約束がおろそかになって数日。 研究の忙しさもあり、泰介はブログの更新どころかメッセンジャーでの会話すらも怠ってしまっていた。 久しぶりに早く家に帰れたある日のこと、メッセンジャーにログインし、shinoとの会話を始める。しかし、いつもの様子はどこへやら、shinoはまるで幼児のような片言の会話しかしてこない。 shino・あしたは きてくれるんですか shino・あしたは きてくれるんですか shino・あしたは きてくれるんですか shino・あしたは きてくれるんですか shino・あしたは きてくれるんですか ブライト・shinoさん? 例の店で何度も話し込んだ思い出が蘇る。店内で、まるで水を得た魚のように生き生きとした彼女を見て泰介も嬉しくなったものだったが、その時の名残は欠片もメッセンジャーの言葉にはなかった。 首をひねる彼を差し置き、なおもshinoの発言は続く。 shino・はやく あいたいです shino・あいたいです shino・あいたいです あいたいです あいたいです あいたいです あいたいです あいたいです あいたいです ブライト・shinoさん? どうしました? shino・ふふふ 最近ブライトさんが冷たいのでちょっとふざけちゃいました 入力ミスですよ〜 どう考えようが、入力ミスで済まされる発言ではなかった。しかし、メッセンジャー越しとはいえそれ以上の詮索を許さないかのような彼女の奇妙な迫力に、泰介は沈黙するしかない。 shino・でも、なかなか会えなくて寂しいのは本当ですよ ブライト・いや こっちもいろいろと忙しくて ほんと申し訳ない shino・メッセンジャーだけで満足してた頃が信じられないです〜 ブライト・それ 自分もおなじです    shino・私、周りにトラウト好きなんて居なかったから あなたと知り合えたとき本当に嬉しかった shino・最近はいつも あの店で読書しながら、次にブライトさんと会えるのは何時だろうって考えているんですよ shino・こんど会ったら これを渡そう 次に話すときは、あんな事を話そう   shino・そんな事ばかり考えていて 最近はなにも手に付かないんです shino・マスターにも 「最近考え事ばかりしてるね」 なんて言われちゃいました shino・ブライトさん ブライト・はい なにか? shino・あしたは きてくれるんですか 「あしたは きてくれるんですか?」 液晶ディスプレイのうえで、輝くその文字。先ほどの連呼と全く同じその文章。 何の変哲もない、友人同士が明日の予定を相談しているだけのはずのそれが、泰介の目には何かとても異質なものに写る。 ブライト・明日は学校の用事なので いけないです ごめんなさい shino・そうですか 今日は早く帰れたが、明日はみのりと共同で進める作業がある。それを心の中で言い訳にしつつ、泰介は拒絶の言葉を放ってしまっていた。 一言で会話を打ち切りログアウトしてしまう彼女の様子に妙なものを感じつつも、何の反論もなかった事に安心してしまう。 だが次の日、みのりと共同の実験を終えて帰宅した泰介は、自宅のアパート前にたたずむ人影を見つけることになる。 どこかで見覚えのあるそのシルエットに近づけば、微笑みながらたたずむshinoがそこに居た。              * 「ブライトさんがなかなか会いに来てくれないので、来ちゃいました」 「shinoさん、どうしてここに? 家の場所って教えてましたっけ?」 「メッセンジャーや直接会ったときに、近所の話をあれだけしてれば、何となく判りますよ。あとはブログの記事を隅から隅まで調べるとか、いくらでもやり方はあるんです」  「いや、いくら何でもそれはおかしいですよ。ブログなんて、せいぜい近所の出来事についてぼかして書いているだけじゃないですか」 「それで、ブライトさんの部屋はどこですか? いつか、二階の角部屋って書いてましたよね?」 泰介の反論に耳を貸さないまま、踊るように階段を上がり彼の部屋のドアの前で立ち止まる。 「「戸田泰介」がブライトさんの本名だったんですね。素敵な名前。私は「篠原未紀」、篠原を取ってshinoなんですよ。たけかんむりの「篠」に、はらっぱの「原」、未来の「未」に、日本書紀の「紀」……」 アパートの表札を眺め、うっとりと自分の本名について語り出す彼女は、あまりに無防備に見えた。 「そろそろ名前で呼んでもいいですよね? 泰介さんも私の事、未紀って呼んでください。 今日はほら、トラウトの初期作品集持ってきたんですよ。前にあったとき、次はこれを題材に合作の評論記事をブログで書いてみようって言ってたじゃないですか! 今日はほら、泰介さんの家でその打ち合わせです」 ハンドバッグの中から本を取り出し、それを示しながらまくし立てるshino……未紀。なんとなしに彼女のバッグの中を覗いてしまった泰介は、いっぱいに本が詰まっている事を見てとる。 「ほかにも、ほら───とか、───なんて、泰介さんが前に読みたいって言ってたじゃないですか。 たくさん持ってきましたよ、私。あんまり詰め込みすぎて家の本棚が空になっちゃうかと思った」 「わかった、わかったから。落ち着いて篠原さん」 途切れなく喋り続ける未紀に、泰介はただならぬものを感じてしまう。部屋の前でこれ以上まくし立てられたくはなかったが、かといって彼女をこのまま部屋に入れるのも気が引けた。 「もう、未紀って呼んでもらって良いって言ってるじゃないですか。呼び捨てが嫌なら、「ミキちゃん」でも良いんですよ? あ、これはマスターと被っちゃうからダメか」 眼鏡の奥の瞳を奇妙に潤ませながらいっこうに口を閉じない彼女に、知らず知らずのうちに圧倒されてしまう。 とにかく部屋に入れて落ち着かせるしかないと決意し、泰介はドアを開けようとする。だが、それを遮る第三の声が後ろから響いた。 「泰介、この人、誰なの?」 「みのりちゃん、どうしてここに……?」 「忘れ物していたから、届けようと思って。それで泰介、この人、誰?」 みのりの姿を認めたのか、途端に表情をけわしくする未紀。みのりの方も同じような顔をしているだろう事は、泰介の背中に投げかけられるその声音が何よりも物語っていた。 「あー、あなたが、泰介さんといっしょに研究してるあの娘なのね。前に見かけたときとはずいぶんと雰囲気が違うみたいだけど、まさか今さら恋する純情乙女でもやるつもりなの? 笑わせちゃうわね」 泰介に向けていた浮き立った表情を一変させ、ぞっとするほど冷たい声で未紀が言い放つ。 「あなたこそ、ネットでの知り合いだかなんだか知らないけど、つきまとわれてどれだけ泰介が迷惑してるか判ってる?」 「私は良いのよ。泰介さんと趣味を分かち合えるのは私だけなんですから。あなたこそ、表面ではそうやって可愛くして振り向いてもらおうとしたって、心の中では彼の事をバカにしているくせに。そんな人に、泰介さんと一緒に居る資格なんて無いです」 「バカにしてなんて無い……!!」  「私、泰介さんから聞いてるんですよ。共同研究してる女の子からいつもきつい事ばかり言われるって。いくら自分がなにをやっても許してもらえるからって、それに図に乗るなんて最低の女ですね」 「今の私はもう変わったの! 私の泰介につきまとわないで!」 「貴女はただの「共同研究者」でしょう? そんな学校だけの繋がりと、趣味を分かち合える私のどちらが泰介さんにとって大切か、言わなくたって判るわよね? いや、判りなさい、理解するのよ、納得しなさい!」 間に泰介を挟み、二人の視線がぶつかり合う。肌を刺す冬の夜の寒さが、泰介には二人のおかげで更に厳しくなったように感じられた。 「あーあ。せっかく色々話そうと思っていたのに、すっかり興ざめ。泰介さん、資料は置いていきますから、打ち合わせはまたあとでやりましょうね? 放課後は私いつもあの店で待ってますからいつでも来てもらっていいんですよ?」 「はい、泰介。荷物ここに置いておくからね。もう忘れ物なんてしちゃだめよ」 永遠にも感じる一瞬の後、視線を外す二人。そのままお互いに相手の存在を全く無視して用件だけを告げると、そのまま未紀とみのりは目も合わせずに去っていった。              * 「みのりちゃん、昨日はその……ごめん」 あの胃が痛くなるような二人の対決から一夜が明けた。まんじりともせず夜を過ごし、眠い目をこすりながら研究室に顔を出した泰介は、何はともあれみのりに謝罪する事にした。 「ううん…… 私もちょっと興奮しすぎちゃった。ダメね、きつい事を言わないって約束したのに」 昨晩の未紀への態度が嘘だったように、控えめに微笑むみのり。そろそろ見慣れつつある落ち着いた雰囲気のファッションに身を包んだその姿がずいぶんと魅力的に見える事に、今さらのように泰介は気づく。 「みのりちゃんが謝ることなんて無いよ。正直なところ、まさかあんな事をする娘だとは思ってなかったし」 みのりの姿に目を奪われていた事をごまかすように、慌てて彼女の言葉を否定する。昨日あんな事があった後に、研究室で彼女とどう接すればいいか悩んだことがばかばかしく思えてくる。 二人で作業を始めてからも、心のつかえが取れたからなのか、積み重なっていた課題が次々と解決されていく。幾日ものあいだ悩んでいた問題が、みのりの助けも借りて次々に解決されていくその様子はいっそ痛快でもあった。 そして、窓の外のキャンパスから人の姿が消え、研究室からも帰宅する学生が出始める頃。 予定していた以上の成果を上げた泰介とみのりも、作業を切り上げて帰宅の準備を始める。 同時に、日中は研究に没頭するあまり心の片隅に追いやっていた昨晩のshino……未紀の姿が泰介の脳裏に蘇る。まさか二日連続で来る事はないだろうが、今後も彼女があのような行為を繰り返すのかと思うと気持ちが重くなってしまう。 「私、泰介にはあの人と会って欲しくないな……」 その心中を察したかのように放たれたみのりの一言に、思わずどきりとする。 常にないほど真剣な表情で自分を見つめるみのりの言葉に、泰介は知らず知らずのうちに聞き入ってしまっていた。 「泰介の趣味を否定する訳じゃないのよ。でも、昨日の様子を見たでしょう? いくら趣味が合うからって、あんな風に人の気持ちも考えないで押しかけて来る人と、このまま付き合い続けたらきっと酷い事になると思うの」 試料、写真、データ、実験室のそこかしこに散らばる、片付け途中の二人が一日で上げた成果。それらを見まわしながら、彼女は続ける。 「学校でこんなに助けてもらってるんだから、泰介にはせめて家では落ち着いて過ごして欲しいの」 切なげに、懇願するかのように説くみのり。これが、shinoとの交友がネットを通じてだけだった頃のように、一方的に上から強要されるだけでは泰介は反発してしまっていただろう。 だが、心底から自分の身を案じてくれているかのように思える今のみのりから放たれるその提案には、つい心が動いてしまう。 「だから、泰介、お願い。すぐにじゃなくてもいいから、あの人と距離を置いて」 結論を急かされはしなかったが、その訴えを聞きながら泰介の心は一つに決まっていた。 みのりと別れ、家路につく。アパートの前に誰の影もない事に安堵のため息をつき、そんな自分に気づいてますます決意を強くする。 「学校が忙しいので、しばらく会えません」 用件のみを告げる、簡潔なメール。これが、いまの泰介に書ける全てだった。              * 今日のノルマとしていた分の作業を終え、二人は実験室の後片付けを始めた。 実験装置の不具合で時間を食ってしまったおかげで、既に夕食の時間はだいぶ過ぎている。学食も、大学の周りの食堂たちも閉まったこの時間に食事をどうしようかと考え込む泰介に、みのりから思わぬ提案が投げかけられる。 「泰介、今日の夜は私の家で夕ご飯食べない?」 「みのりちゃん、それって……」 彼女からこんな誘いを受けるのは、出会ってからの一年で初めてだ。あっけにとられとっさに返事できない泰介に、みのりは慌てて言葉を続ける。 「か、勘違いしないでよね。最近、泰介には凄く助けてもらってるから、お礼をしようってだけよ。大切な共同研究者の生活に気を配るのも、研究者としての務めってこと。いつも朝起こしたりしていたでしょう? その延長よ、延長」 頬を赤らめ、あたふたと否定するみのりが微笑ましい。 「べ、別に今日が週末の夜だとか、関係ないわよ。意識しすぎなのよ泰介は」 何も言っていないのに勝手に一人で墓穴を掘っていく彼女の姿を見ていると、断るのも野暮な気がしてくる。それに、泰介とてこのまま無為に週末の夜を過ごすよりは、みのりの誘いに乗る方が楽しいように思えた。 「お邪魔します……」 「ふふ、そんなかしこまらなくてもいいのに」 初めて訪れるみのりの家は、昔の彼女の派手な姿にふさわしい豪勢なものだった。 常駐の管理人に二重のオートロックが侵入者を拒み、一歩中へ踏み込めばよく手入れのされた植栽が吹き抜けの中庭で控えめに自己主張する。吹き抜けで上を見上げれば、街明かりで星の少ない冬の夜空が見えた。案内されたみのりの部屋も、泰介の感覚からすれば女子大生の一人暮らしには大きすぎるように思える。 「そんな、見まわさないでよ。恥ずかしい」 「ああ、ごめんごめん。しかしこの部屋にみのりちゃん一人なの? 自分の住まいが悲しくなってくるよ」 「無駄に広いだけの部屋よ、こんなもの。泰介のアパートくらいのほうが手頃で私は好きだな」 よく整頓されたキッチンを通り抜ければ、泰介の部屋の2倍はありそうな居室がある。衣装持ちの彼女にふさわしい大きなクローゼットが自己主張するほかは、たいした家具も無い事が余計に広さを感じさせた。 机の上にきちんと整理されて並ぶ生化学や薬学の専門書たちが、彼女の人柄を何より物語っているように思える。 「泰介はここで待ってて。いまご飯の用意するから」 「何か手伝う事は? 流石にみのりちゃんに全部やってもらうのは申し訳ないよ」  「いいのいいの。 絶対に見に来ないでね?! 恥ずかしいから……」 そう言い残し、間仕切りのドアを閉めキッチンに引きこもるみのり。その態度が彼女の料理の腕を物語っているかのように思え、泰介は急に不安を感じてしまう。 だが、あのみのりがこうして自分の為に何かをしてくれているということに、心がくすぐられている事も確かだった。 手持ちぶさたになった泰介が部屋を見まわせば、こぎれいに整えられたベッドに目が向く。女の子らしい意匠のちりばめられたそれを、どうしても意識してしまう。 結局泰介は、みのりが夕食を作り終えるまで一人悶々とするしかなかった。 「たぶん、口に合うと思うけど」 「美味しいよみのりちゃん! こんなに料理が出来るなんて、知らなかった」 「泰介、いつも学食で中華ばかり食べてたでしょう? だから、こういう味が好きなのかなって」 自信なさげな様子のみのりに運ばれてきた夕食を一口食べるなり、泰介はその味に目を丸くした。見栄えは確かにあまり良くはないが、味はたいしたものだ。 食事から顔を上げれば、テーブルの向こうで頬杖をつき、穏やかに自分を見つめる彼女が居る。料理をする際に動きやすいようにか、一つにまとめた髪からこぼれる後れ毛が、昔の手の込んだヘアスタイルとは違った意味の魅力を振りまいている。 「そういえば、みのりちゃんは食べないの?」 「私、いまちょっとダイエット中なの。気にしないで、泰介のために作ったんだから」 しばらくして、こちらを見つめるばかりでみのりがほとんど食事に手をつけていない事に泰介は気づいた。 「こんなに上手に出来てるのにもったいない。少しくらい食べてみれば? ほらこれなんか……おっと」 自分がそれほど食べるのに夢中になっていた事を内心で恥じながら、泰介は白米を細々と口に運ぶばかりのみのりに取り分けた主菜を差しだす。 だが掴み方が悪かったのか、テーブルの上に取り落としてしまう。即座に拾おうとするが、何故か箸に力が入らない。 引き続いて腕にまで力が入らなくなっていくにあたり、彼の脳裏に警鐘が鳴りだした。 みのりに向かって自分の身体に起こった事を伝えようとしても、既に口にまで麻痺が回ったのか全く声が出ない。 「私の料理、美味しいでしょう……?」 次第に狭まる視野の中で泰介が最後に見たものは、テーブルの向こうで微動だにせず、貼り付いたような笑みを浮かべ自分を見つめるみのりの姿だった。              * 全身に走る鈍い痛みに顔をしかめながら目覚めると、目に映るのは見慣れない模様のカーテンだった。白を基調に、目をこらさなければ判らないくらい微かに花模様の散らばるそれが、換気のためにか開けられた窓からの冷気を受けて揺れる。 「泰介? もう起きたんだ」  隣のキッチンらしき部屋に通じるドアから、ラフな部屋着に身を包んだみのりが顔を出す。その姿で、ようやく泰介は昨晩みのりの部屋で食事を取った事を思い出した。 しかし、途中からの記憶がどうにもはっきりしない。 「いったいどうして……?」 「昨日、私の料理を食べに来てくれたじゃない。そのまま、私の家で眠ってただけ あの女が家に来ていたりしたら危ないでしょう? だから泰介は、しばらく私の家で暮らせばいいのよ」 みのりの言葉のあまりの内容に、それが頭に入らない。そんな泰介をよそに、彼女はよどみなく言葉を続ける。 「私ね、決めたのよ。もっと自分の気持ちに正直になろうって。 自分がこんなことする人間だったなんて、今でも信じられない。恋愛なんか脳の中の化学物質のまやかしだって思ったのに。それもこれも泰介、全部あなたのせいなのよ?」 「みのりちゃん? 突然何を言いだすんだ?」 「最初はね、ちょっとした好奇心だったのよ。泰介が暇を見つけては会いに行く「友達」って、いったいどんな人なんだろうって。 「ちょうど駅前を歩いていたとき、あの人と待ち合わせをしている泰介を見つけたわ。なんだか凄く楽しそうにしていて、悔しくなっちゃったの」 思い出を語るみのりの口ぶりに、次第に怒りがこもっていく。 「私が近くに行っても気づかないくらい話し込んで、あげくは二人で喫茶店にまで行っちゃって。どうせすぐに出てくるだろうと思って、店の外で隠れて待ってたのよ? 泰介とあの女が店から出てきたら「あら泰介、こんな所で会うなんて奇遇ね」なんて、偶然通りかかった振りして驚かすつもりだったの」 shinoにあの喫茶店へ案内された日の事だろう。お気に入りの場所に案内するという彼女の言葉に舞い上がっていたあの日の事が、はるか過去のように泰介には思えた。 「でも……!! いつまで、何時までも待っても泰介は出てこなくて。やっと出てきたと思ったら「これからはここで会いませんか?」でしょう? あの女、下心みえみえすぎて笑っちゃうわ。泰介、私、何もかも全部見てたのよ?」 shinoへの憎しみもあらわに、みのりが血を吐くように叫ぶ。その言葉の呪縛に、泰介はベッドの上から動けない。 「研究成果を出すだけの道具みたいに見てくる先生方も、まるで何か宇宙人でも見るように接してくる研究室の先輩達もみんな要らない。私には、泰介、貴男がいなきゃいけないって、その時わかったの」 ただの共同研究者だとばかり思っていた。下僕か何かだと思われていると信じていた。だが、自分の前では思ったままを言い放ち、気ままに振る舞うみのりに、気がつかないうちに魅力を感じていたのも事実だ。 男女を意識しない、気の置けない共同研究者同士。その関係が、彼女の言葉で音を立てて壊れてゆく。 「だから、どうやったら泰介が戻ってきてくれるか必死で考えた。酷いこと言わないようにしたし、かわいく見えるようにしたわ。あの女が本性を現して、泰介がそれに気づいてくれて嬉しかった」 「でも、でもまだ足りない。全然、全然足りないのよ!」 「いまはもうshinoさんとは連絡を取っていないし、いままで通り研究もいっしょにやっているだろ? これ以上、どうすれば良いんだよ」 「その程度じゃダメ。泰介は、私とずっといっしょにいないとダメなの」 机の上に置かれていた、どこかで見た覚えのある小さな鍵。その正体に泰介が思い至る前に、みのりから事実が明かされる。 「だから、泰介が私のそばから離れないよう、ちょっと頑張っちゃった。 先生は私の事を信じ切ってくれてるから、薬品庫の鍵だってほらこの通り。苦労したのよ、料理の味を邪魔しないで、なおかつ身体に害の残らない薬を探すのは」 陶酔した目で自分のしでかした行為について語るみのり。罪悪感など欠片もない彼女の語りに耳を傾けていると、泰介の感覚も次第に麻痺してくる。彼女の言葉が、全てもっともな事として聞こえてくるのは薬がまだ抜けきっていないからなのだろうか。 いつの間にか近寄っていたみのりが、ベッドの上によじ登ってくる。狭いシングルベッドの上では、意図せずとも身体が密着してしまう。 「あんな人の事なんて全部忘れてしまえばいいのよ。ううん、私が忘れさせてあげる。私の料理、美味しかったでしょう? これから毎日、泰介の好きな物ばかり作るわ」 ベッドの上で固まる泰介に、みのりがにじり寄ってくる。息がかかるほどの距離で放たれる彼女の言葉に、泰介の中で何かが崩れていく。 間近に迫った彼女の顔から目を背ければ、大きめの部屋着の襟元から下着を着けない胸元が覗いた。 「ふふ…… 気になる? 私の事だって、泰介がそうしたいなら好きにして良いのよ?」 胸元に向く泰介の視線に、みのりが誘うように微笑む。 「学校には二人とも体調不良で十日くらい休むって連絡しておいたわ。きっと今頃研究室の人達は、私達がどうしているか噂しているでしょうね。 あの人達が想像も出来ないくらい、凄い事、しちゃいましょう?」 押しつけられるみのりの身体の柔らかさに、頭が白くなっていく。そして同時に、泰介は彼女の大胆なそぶりが身体を震わせながらのものだと気づく。 彼女とこうした関係になる事を夢想した事がまったくないと言えば嘘になる。だが、それは未来永劫かなわないものだったはずだ。 いままでの関係が変わってしまう事への恐れは根強くあった。だが泰介には、慣れない誘惑までして自分をつなぎ止めようとする目の前の哀れな少女を見捨てる事はもうできなかった。 みのりを抱きしめ、そのまま押し倒す。 「優しくしてね、泰介……」 泰介の腕の下で懇願する彼女。その唇を奪い、泰介はいままでの二人の関係に別れを告げた。              * 風に乗り、桜の花びらが舞う。 花びらと共にかすかに漂う香りを感じながら、慣れないスーツ姿に身を包み、私は駅へと急ぎ足で向かう。どうにも窮屈に思えるパンプスも、無造作に伸ばすのをやめてまとめるようにした髪も、就職にあたって新調した眼鏡も、全て自分のものでないような感覚が未だにぬぐえない。 私の家から駅まで一番早く行ける道のりには、あの喫茶店がある。そのこぢんまりとした店構えの前を通り過ぎるたび、ここで時間を忘れて話し込んだのを思い出す。 知り合うきっかけになった彼のブログは、あの冬からぱたりと更新が途絶えていた。 なんど家を訪ねても留守にしているのに業を煮やし、伝手を辿って共同研究者の彼女の家を突き止めたときの事が、今でも頭から離れない。 友人のふりをして管理人とオートロックをやりすごし、目指す部屋のドアを開ける私の目に映ったのは、ぴったりと寄り添う二人の姿だった。 私の事を汚物を見るような目で見る彼。その傍らで勝ち誇った、そしてどこか空虚な笑顔を浮かべる彼女。 不審者としてマークされたのだろうか。それ以来、どんなにごまかそうが管理人に通してもらえなくなり、彼女の部屋を訪れる事は出来なくなった。 私は何を間違ったのだろう? 私はどうして選んでもらえなかったのだろう? 彼女と比べて私の何がいけなかったのだろう? 夜ごと自分をさいなむ疑問に、答えは出ない。 それでも私は、今でも、毎晩、メッセンジャーで、オフラインの彼に呼びかけ続けるのだ。いつか彼が目を覚まし、私の想いに応えてくれる事を信じて。 shino・泰介さん こんばんは〜 いま大丈夫ですか?